軍事演習、冷静保つ台湾社会 「やり過ぎでは」中国離れの動き!?

米国のペロシ下院議長の台湾訪問をきっかけに、中国は台湾周辺で大規模な軍事演習を開始した。中国の習近平指導部は、台湾と中国の関係を現状維持しようとする台湾の蔡英文氏を追い込む目的で、貿易関係の制限を強化するなど、軍事面だけでなく経済面でも圧力を強めてきている。今のところ、台湾社会に大きな動揺は見られないが、演習区域を台湾の領海に相当する範囲に拡大し、弾道ミサイルを発射するという中国の強硬姿勢に反発する声もある。中国が目指す “成果 “が得られるかどうかは不透明だ。
図解 中国の弾道ミサイルが着弾したとされる地域。
 台湾南部の屏東県にある離島「小琉球」は、中国軍の演習区域から約10キロの「最前線」に位置する。演習中は多くの漁師が漁を自粛しているという。ある漁師は台湾メディアの取材に対し、「ミサイルに当たって死ぬかもしれないと心配になった」と語った。北東部のギラン県では、3日間の軍事演習中に漁ができなくなると、最大で5000万台湾ドル(約2億2000万円)の損失が発生すると報じられている。
 ペロシ訪台と前後して、中国の税関当局は、台湾からの魚や柑橘類の輸入停止、台湾への天然砂の輸出停止などの措置を発表した。台湾からの輸入品から基準値を超える化学物質が検出されたためというが、事実上の “報復 “だと思われる。
 台湾の国防部(国防省に相当)によると、中国軍は4日、台湾近海に向けて弾道ミサイル11発を発射した。日本の防衛省は、このうち4発のミサイルが台湾本島上空を通過したと推定している。
 しかし、2016年に発足した民進党の蔡英文政権に対して中国が対決姿勢を示しているため、台湾では「中国の脅威は今に始まったことではない」と冷静に受け止めている人が多いようだ。
 蔡英文総統は4日の発言で、中国に自制を求め、台湾住民に「主権と民主を守るために全人民が団結し、与野党で協力しよう」と呼び掛けた。一方、対中融和路線をとる最大野党・国民党の朱立倫主席(党首)は4日、記者団に「(中台)両岸の対立ではなく、対話が重要だ」と強調したが、民進党は両岸の緊張を利用して政権の不利を隠していると批判している。
 中国が軍事演習を「米台への脅威」と公言したことで、台湾住民の中国離れが進む可能性がある。半導体受託生産大手UMCの曹興成名誉会長は5日、中国の圧力に対抗して「台湾の国防予算に使ってほしい」と30億台湾ドル(約130億円)の寄付を表明した。ある国民党幹部は、「中国がやりすぎている感は否めない。これだけ圧力を強めても、台湾の住民が中国を好きになることはないだろう」と話している。